心の痛みを語る女性たち 
 忘れられない10代の傷跡  読者たちの思い 

 「まるで私みたい」「娘のことで悩んでます」。自殺衝動を抱えてもがく少女を追った連載企画「 私なんか要らない! 」には、多くの読者から感想が相次いだ。死への衝動の周辺には、濃密な"生"の営みがあった。
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 「人ごとと思えなくて」とメールをくれたのは、「この半年、死に支度をしてました」と言う二十代のヨシエさん。コンパスで足裏を傷つける自傷癖もあり、劣等感と自己嫌悪がひどいという。
 小学校で「カビ」と呼ばれ、徹底して仲間外れに。手のひらをえぐる自傷を始めたのも、このころ。「眠れず、物が持てないほどの痛みを実感することでしか、心の痛みは忘れられなかった」
 首つりや電車への飛び込みも考えた。「『自殺はいけない』と分かっていても、死から遠ざかる術(すべ)は分からなかった。今はただ存在を認めてほしい。この世に居場所があると感じたい」
 つらかった十代のころの親子関係や心の痛みを語る三十代女性も。長女として親の期待を背負ったサチコさんの生活が激変したのは、十七歳の夏。父の転職を機に家計が悪化。不仲続きの両親を横目に、過食と嘔吐(おうと)が始まった。「ガリガリにやせて親も化け物扱い。寂しさから"援助交際"やリストカットもしました。通院しても変化はなかった」
 現在は二児の母だが、夫とはドメスティックバイオレンス(DV)が原因で離婚。「過食はまだするけど、ちっちゃい二人がいる限り、つらくても死ねない」とシングルマザーの覚悟を語る。
 小学生の時に両親が離婚したのは三十代後半のアキコさん。妹と一緒に引き取った父親は女性との交際にのめり込み、食べ物がないまま何日も放置された。「私たちは父には不要だった。じゃまなんだと思った」。以来、恋愛や結婚に全く期待を持てず、独身を貫く。
 ひどい養育放棄(ネグレクト)に耐え、自殺もしなかったのは「妹のおかげ」とアキコさん。「妹を成人させることだけが生きる理由だった。妹は結婚後の今も甘えてくるけど、居場所をもらっているのは私」と話す。
 接客業に疲れ、職場で吐き気が止まらなくなったマキさんは十九歳。記事に登場した少女たちと同世代だ。「周りに迷惑をかけるのが嫌で、自分を追いつめて死にたくなった。記事を読んで『同じ悩みがある人もいるんだ』とうれしかった」
 「これまで五回、自殺未遂した」とは、十八歳のカナさん。一時はリストカットも激しかったが、不登校だった高校をやめ、アルバイト先での出会いに救われた。「やっぱ人間関係は大切です。もう自殺願望はありません」と話してくれた。(登場人物はすべて仮名)


 【記者メモ】感想は九割が女性。携帯電話から千字を超えるメールが相次ぎ、抱える思いの"熱さ"を痛感した。

 

揺れ動く母たちの手探り 
 不安と涙をこらえつつ  読者たちの思い 

 親として守ってあげたいけれど、もっと強くなってもほしい。大量服薬など自傷行為が止まらない高校生の長女を気遣うトシコさんは、揺れ動く心境をこう語る。「抱きしめたりしていますが、過保護になっては駄目だし、どんな接し方がいいのか。大きな課題です」
 小学校でいじめに遭った長女は、中学校では教師のセクハラも受け、リストカットや過呼吸の発作を繰り返すようになった。成績は優秀だが抑うつ状態が長引き、友人関係に悩むなどして何度も転校。今春、一年遅れて高校三年に進級した。
 今年四月までは親元を離れた寮生活だったが、心療内科の処方薬を何度もあおる騒ぎを起こし、トシコさんが学校近くにアパートを探して一緒に暮らし始めた。夫は実家で"留守番"という。
 「一緒に住んでからはだいぶ落ち着きましたが、それでも何度か薬を一気に飲み、『死ぬ気はないのに抑えられない』と話しています。娘の気持ちを理解し、必要な時に心から包んであげたいと思うのですが」と話す。
 「『私の何が悪かったの?』という母親の叫びが聞こえるようでした」と感想をくれたのは、五歳の娘を育てるアユミさん。育児に無理解な夫に失望したり、しゅうとめや世間の目を気にする孤独な母たちの存在を指摘。「子どもに問題が起きたとき、支援が必要なのは乳幼児の母親だけじゃないと思う」と話す。
 十八歳で社会人一年生になったばかりの長男が、無断欠勤して行方不明になり、睡眠薬や殺虫剤を飲んで自殺を図ったというミドリさんも、苦しむわが子を見かねて悩む日々が続く。
 対人恐怖や孤独感が特徴の社会不安障害と診断され、投薬とカウンセリングで治療を開始。「幼い時から大人に怒られるのが怖く、ずっと『いい子』にしていた。厳しい父を殺したいと思ったこともある」との告白を聞き、長男に反抗期がなかったことに気付いた。
 「私自身はもともとプラス思考で社交的。夫も支えてくれてますし」とミドリさん。それでも無意識のうちにイライラを長女や二男にぶつけ、「自己嫌悪で涙がこぼれてしまう」と打ち明ける。
 「記事を読んで、苦しいのはうちだけじゃないと励まされました。一人じゃないと思えば、乗り越えていける気がします」と気丈につづった文面が印象に残った。(登場人物はすべて仮名)


 【記者メモ】目に見えにくい心の病。もがき苦しむ本人のそばで、家族も戸惑い、焦り、傷つく。共倒れは最悪。悩みを抱え込まないでほしい。

 

孤独と悔しさが追い打ち 
 根が深い無理解や偏見  読者たちの思い 

 死が希望に思えるほどつらい心の痛み。追い打ちをかけるのが周囲の無理解や偏見だ。「絶望の底でもがいても、誰も分かってくれない。生き地獄のような一年でした」と疎外感を訴えたのは、十六歳の長女が発達障害の「アスペルガー症候群」と診断されたミナさん。
 昨年だけで六カ所の医院を訪ね歩いたが、診断は境界型や演技性の人格障害、解離性同一性障害(多重人格)など定まらない。三回入院した長女は退院するたびに家で暴れ、自殺を図ったという。幼い弟も影響を受けて心のバランスを崩し、一時は児童相談所で保護する話も出たほど。
 現在はアスペルガー症候群と診断され、高校生活とアルバイトが両立するまで回復したが、親子で突き落とされた孤独感は今も忘れられない。「わが家だけ異次元にいて、目に見えないバリアーが周囲に張られているみたいでした。もっと多くの人が心の病を理解し、助けてくれる世の中になってほしい」
 「先が見えない症状のつらさより、精神疾患への無理解と差別が娘には数倍苦しいようです」と語るのは、統合失調症の長女が自殺未遂を繰り返す六十代のタカシさん。
 長女が暮らすアパートを近隣住民が窓からのぞき見たり、指をさしてうわさ話をするため、法務局に相談するなど対策を検討中という。「地域の人々が気づかないまま、つらい病人をさらに苦しめている実態がある」
 リストカットなど自傷行為を伴う抑うつ状態の治療のため休職したのに、社長の独断で強制的に復職させられた男性も。「人事担当者は休職期間の延長を了解していたのに、社長に『出勤しない場合は左遷する』と脅された」と三十代のユウイチさん。「日本は精神医学の発達が不十分なため、目に見えない心の傷への社会の理解も低いのでは」
 二十代で入水(じゅすい)自殺を図り、精神科の閉鎖病棟に入院したスミコさんは退院後、理解ある男性と出会って快方に向かい、二人の子どもに恵まれたが、長女が通う小学校の保護者の間で入院歴がうわさになり、転居を余儀なくされたという。
 「『あの家の子どもとは遊ばせないように』と触れ回られ、頭が真っ白になった。私が人でも殺したのでしょうか。精神科の入院歴があるというだけで、犯罪者でも見るような目で見られるのは悔しい」と語った。(登場人物はすべて仮名)


 【記者メモ】自殺や精神疾患に半端な知識があり、正論めいた暴言で病人を苦しめる人々がいる。実態を知ってほしい。説教や激励よりも、まずは理解を。

(山下憲一・共同通信記者)